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歴史はくり返さない
スピノーダル分解では実験毎のパタンはいつもまったく異なるが,しかし,形状因子で見るといつも同じになる.パタンは初期における微細なゆらぎで決まっている,つまり非常に偶然的な事象に支配されている.したがって歴史はくり返さない.複雑系はこのパタンを支配する濃度変数のように巨視的なスケールを持った変数に支配された系だから,初期のデータのコントロールをしなければその歴史はくり返すことがない.しかし,オルテガやカーがいうように歴史には普遍的側面がある.それがこの場合は形状因子でとらえられている.
では形状因子に見られる普遍性は何に由来するのか?物理の基本法則であるか?この場合,パタンが界面で構成されているということが本質であるが,それは歴史によらない.つまり,この普遍性は基本法則だけで理解できる.歴史がくり返さないのは,気体の中の分子の配置が二度と同じでないのと同じ質の話しであり,ただそれが系の不安定性のゆえに大きなスケールにまで効果を持つに過ぎない.
つまり,歴史がくり返さないということだけは複雑系と共通であるが,それ以上の共通点はない.複雑系の歴史は,初期条件がどうでもよくない現象の歴史であるから,その意味でスピノーダル分解は複雑系のモデルにはもちろんならない.しかし,例えば中間漸近状態があるパタンになることを要求すれば,もちろん系は基礎法則だけでは決められない.要求される条件についての法則性の追求,それと基礎法則の絡み合いの研究が複雑系の研究である.