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図5.4.1についての注意: C数の巨大なものについてはどうしてくれる?
Mattickらによるこの図は2007年当時までに公表されている全ゲノムが読まれている生物についての結果である.こんなきれいな結果が一般に成り立つのかということはいわゆるC数パラドクス(ゲノムあたりのDNAの量, これはふつうに言う高等下等の関係とまったく並行しない; それどころかたとえばユリ科では同じ属の中で二桁くらい違いうる)を考えると,この図で取り扱われている比は近縁種では単純にC数に逆比例して,ここでMattickらが主張しているような関係は成り立つはずがない,という批判がありうる.
いままで読まれたゲノムには極端にくり返しの部分が多い,両生類,ユリのような植物,シロアリやゴキブリなどは避けられている.これがきれいな関係の理由である可能性は大きい.Elbert BranscombさんがB. K. Peterson et al., Big genomes facilitate the comparative identification of regulatory elements, PLoS ONE 4, e4688 (2009)をご教示下さったが,その図1を見るとこれが明瞭である.だいたいにおいてある分類群では,特にC数の幅の広い分類群では,C数が少ない種が,当然ながら,選ばれている.したがって,この図5.4.1の関係はこのようなサンプリングの結果であり,一般的には成立しないのではないか.
これに対する解答はたぶん次のようなものである.この図はRegulatory elementsとCoding genesの比を大きさの順位にならべたものであるべきである.ここでは単純にRegulatory elementsの総量をncDNAの総量で近似した(あるいはsurrogateとして使った)のである.この近似がだいたい成り立つのはC数が極端に大きなものでないことが重要で,幸か不幸かそのような読みやすいゲノムしか読まれてこなかったのでMattickらの試みはうまくいったのである.
Mattickらの原報でも明らかなrepetitive elementというものは考えに入れないほうがいいと読める部分もあるし,transposon起源の部分はProcaryaゲノムからのぞかれている.したがって,Mattickらの主張をregulatory elementについてのものであると正しく理解すれば,,このような図が成立し続ける可能性はかなりあると考えられる.
上記引用の論文はC数の大きなTephritidaeのハエとショウジョウバエを比べてregulatory elementsが明瞭に他のnoncodingかつpoorly conserved partsと識別できることをしめしているから,真のregulatory elementsの量が定量出来る可能性は近い将来大いにあり,この図はよりよく書き直すことが出来ると期待できるのではなかろうか.
ユリ科についての参考文献
Liliaceae giant DNA
7 LEITCHPunctuated genome size evolution in Liliaceae
JEB 20 2296
(BG) Most angiosperms possess small genomes (mode 1C = 0.6 pg, median 1C = 2.9 pg). Those with truly enormous genomes (i.e. $\ge$ 35 pg) are phylogenetically restricted to a few families and include Liliaceae - with species possessing some of the largest genomes so far reported for any plant as well as including species with much smaller genomes.
* 78 species were superimposed onto a phylogenetic tree.
*Genome size in Liliaceae followed a punctuated rather than gradual mode of evolution and that most of the diversification evolved recently.
この図1を見ると優に二桁DNAの量が変わることがわかる.
ProcaryaとEucaryaの複雑性から見た本質的違い