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きちんと折りたたまれるタンパクは少数派である
学校ではタンパク質はその自然な条件下では確定した平衡構造に折りたたまれていると教わる.だがそれにどのくらいの実験的証拠があるか,と懐疑的に問い始めると,かなり問題であることがわかる.まず,いつも同じ構造にたたまれるようなタンパクがいろいろあることはたしかなのだが,それが本当に平衡構造であることを実証した(つまり,本当に自由エネルギー最小の状態であるということを実証した)実験というのはほとんどないはずである.分子動力学によって安定性は確かめられているというが,それは結晶解析などで与えられた構造が準平衡であることを示す以上のことはしない.次のような話さえある:
Folding location overrides binding preference
Tottey et al., “Protein-folding location can regulate manganese-binding versus copper- or zinc-binding,” Nature 455, 1138 (2008).
The paper studies the most abundant Cu2+-protein, CucA (Cu21-cupin A), and the most abundant Mn21-protein, MncA (Mn21-cupin A), in the periplasm of the cyanobacterium
Synechocystis PCC 6803.
また酵素活性は必ずしも自然状態を必要としない:
No folded state may be needed for enzymatic activities
Bemporad Biological function in a non-native partially folded state of a protein
EMBOJ 27 1525 (2008)
Sponer Tight Regulation of Unstructured Proteins: From Transcript Synthesis to Protein Degradation
S 322 1365 (2008)
(BG) Altered abundance of several intrinsically unstructured proteins (IUPs) has been associated with perturbed cellular signaling that may lead to pathological conditions such as cancer.
*Abundant phosphorylation and low stochasticity in transcription and translation indicate that the availability of IUPs can be finely tuned. Fidelity in signaling may require that most IUPs be available in appropriate amounts and not present longer than needed.
この論文によるとコウボの細胞内において6702タンパクのうち1971のみがきちんとした形に折りたたまれる.2711は分子の70-90%くらいが確定した構造をもち,のこりの2020がhighly unstructured proteinである.うえの引用にあるように,unstructured proteinsはより厳密に制御されているから重要な役割を担うことが推測される.実際.これらはシグナル伝達などに深く絡んでいると考えられている.Dunker, Function and structure of inherently disordered proteins,
COSB 18 , 756 (2008). 多くの構造が確定したシグナルタンパクが無構造的タンパクと結合することが知られている.また,遺伝子が重複されたときdosage imbalanceなどの問題が起こるが,その原因としてタンパク質の無秩序領域のタンパク質の余計な相互作用があげられている.
高等な真核生物ほど無構造的タンパクの割合が大きくなることが知られている.
本書の著者はunstructured proteinという言葉の方がdisordered proteinよりいいと思っているが,大勢としてはdisordered proteinが定着しつつあるようである.