p28
関数概念
実は,オイラーは現代的な関数概念を持っていた.
「xは変化量を表すとすると,どのような仕方でもよいからxに依存する量,すなわちxを用いて定められる量はすべてxの関数と呼ばれるのである.」
これは,高瀬正仁「無限解析のはじまり 私のオイラー」(ちくま学芸文庫, 2009) p116に書いてあった.
高瀬正仁「無限解析のはじまり 私のオイラー」 (ちくま学芸文庫, 2009)
あらためて書くが,これは一読の価値がある.そこにオイラーに三つの関数概念があったことが書かれている.
第一の関数概念: 解析的表示の出来る関係.
第二の関数概念: 任意に描かれた曲線が定める関係.
第三の関数概念: 変数間の関係性が定める関係(たとえば,x^2 + y^2 = 1によるxとyの関係のように,多価性も許容する).
この本では後の方にオイラーがいかに負数の対数を考えたかが詳しく説明されているから,この第三の概念も重要であるが,われわれに関係しているのは第一と第二である.
p108に「 解析的表示式という、数学史上はじめての関数概念を提示したオイラーは,その当初からすでに,これでは不十分であることに気づいていて,「完全に一般的な関数」の概念をさりげなく語っていたことになります.「さりげなく」というのは,明確な概念規定の言葉が欠如しているからそういうのです. 」
そして
p110に「 「任意に描かれた曲線を通じて関数が定められる」抽象的な対応としての関数が、こうしてひそやかに誕生しました. 」
要するにDirichletが明示的に述べたことを、当然といえば当然だが,すべてオイラーは知っていたのである.人は言葉にきちんと出来ることよりもはるかに多くのことを知っている.
そしてp118に
「 第三の関数概念が書き留められたオイラーの著作『微分計算教程』は1775 年に刊行されましたが,執筆は1748 年と記録されています.これは『無限解析序説』刊行と同年であり,しかもオイラーがベルリンのアカデミーで「弦の振動について」という表題で講演を行い,第二の関数概念を表明した年でもあります.解析的表示式という第一の関数概念が記述された『無限解析序説』が執筆されたのは、刊行3 年前の1745 年のことでした.1745年から1748年にかけての3年間は,近代数学史の流れにおける関数概念の誕生期として長く記憶に留めておきたいと思います. 」
ここに書いてあるように,オイラーの場合も、関数概念の考察に弦の振動の問題が絡んでいる.
この本のp277に純粋数学と応用数学の関係について
「 オイラー自身は数学の名のもとに包摂されるありとあらゆる研究領域を渉猟した人で、数論や無限解析などの純粋数学と並んで,力学,変分法,天文学など,応用数学の方面でも大いに天才を発揮しました.まことに数理科学者と評すべき人物なのですが,そのオイラーは純粋数学と応用数学を峻別し、純粋数学が明晰判明であることを「常々誇りにしていたのである」というのです.渾然一体となった数理科学の世界から純粋数学が抽出されたというのは俗説で,数理科学の全盛期からすでに,純粋数学は名誉ある固有の位置を占めていたのです. 」
「数理科学の世界から純粋数学が抽出されたというのは俗説」ということは、言われてみれば,まことにもっともである.ギリシア数学の起源もメソポタミア数学から抽出されたものであるわけではまったくないのだった.ちょっと反省すればわかるように,精神態度はたぶん根本的に違うのだ.これについてはそのうちまた敷衍しよう.