俳句
春の日, あら野, 猿蓑, 続猿蓑, 草木塔, 蕪村句集
1251
304 けさの春海はほどあり麦の原 雨桐
310 星はらはらかすまぬ先の四方の色 呑霞
340 夏川の音は宿かる木曽路かな 重五 [「春の日」]
1252
363 暮淋し花の後ろの鬼瓦 友五
444 はつ雪に戸明けぬ留主の庵かな 是幸 [「あら野」 一]
1253
531 つきたかと児のぬき見るさし木哉 舟泉
565 なの花の座敷にうつる日影哉 傘下
567 うごくとも見えで畑うつ麓かな 去来
595 行蝶のとまり残さぬあざみ哉 燭遊
598 ほろほろと山吹ちるか滝の音 芭蕉
599 松明に山吹うすし夜のいろ 野水 [「あら野」 二]
1254
681 夕顔は蚊の鳴くほどのくらさ哉 偕雪
684 楠も動くやうなり蝉の声 昌碧 [「あら野」 三]
1255
832 としごとに鳥居の藤のつぼみ哉 荷兮
843 氷みし添水またなる春の風 野水
847 行春もこころへかほの野寺かな 野水 [「あら野」 六]
1256
938 おくられつおくりつはては木曾の秋 芭蕉
941 とまりとまり稲すり歌もかはりけり ちね [「あら野」 七]
1257
1063 しんしんと梅散りかかる庭火かな 荷兮 [「あら野」 八]
1258
1619 幾人かしぐれかけぬく勢田の橋 丈艸
1630 ひといろも動く物なき霜の夜 野水
1671 この木戸や鎖のさされて冬の月 杉風
1687 下京や雪つむ上の夜の雨 凡兆 「猿蓑」 一 ]
1259
1775 すず風や我より先に百合の花 乙州
1782 頓て死ぬ気しきはみえず蝉の声 芭蕉 「猿蓑」 二 ]
1260
1810 あさ露やう金畑の秋の風 凡兆
1869 高土手にひはのなく日や雲ちぎれ 珍碩 「猿蓑」 三 ]
1261
1934 かげろうや柴胡の意図の薄曇り 芭蕉
1990 くたびれて宿かるころや藤の花 芭蕉 「猿蓑」 四]
1262
2158 しづかさは栗の葉沈む清水かな 柳蔭 「猿蓑」 六]
1263
2409 大はらや蝶の出てまふ朧月 丈艸
2444 やまざくらちるや小川の水車 智月
2514 月影にうごく夏木や葉の光 可南
2540 行雲をねていて見るや夏座敷 野坡 [ 「炭俵」 上 ]
1264
2973 くもる日や野中の花の北面 猿
2998 病僧の庭はく梅のさかり哉 曽良
3001 しら梅やたしかな家もなきあたり 千川
3065 やぶあぜや穂麦にとどく藤の花 荊口
3133 藻の花をちぢみよせたる入江かな 残香
3137 朝露によごれて涼し瓜の土 芭蕉
3144 一田づつ行きめぐりてや水の音 北枝
3165 李盛る見せのほこりの暑哉 万乎
3176 若竹や煙の出る庫裏の窓 曲翠
3195 魚あふる幸もあれ渋うちは 馬筧
3233 月かげや海の音きく長廊下 牧童
3256 つたの葉や残らず動く秋の風 荷兮
3278 何なりとからめかしゆく秋の風 文考
3438 菊刈るや冬たくまきのおきどころ 杉風 [「続猿蓑」
604
分け入つても分け入つても青い山
まつすぐな道でさみしい
木の芽草の芽あるきつづける
またみることもない山が遠ざかる
捨てきれない荷物のおもさまへうしろ
まつたく雲がない笠をぬぎ
墓がならんでそこまで波がおしよせて
物乞ふ家もなくなり山には雲
うしろすがたのしぐれてゆくか
朝凪の島を二つおく(呼子港)
ふるさとは遠くして木の芽
朝からの騒音へ長い橋かかる
ー鉢の子ー
もう明けさうな窓明けて青葉 ー其中一人ー [種田山頭火「草木塔」]
608
松風すずしく人も食べ馬も食べ
けふもいちにち風をあるいてきた
何が何やらみんな咲いている
あるけばきんぽうげすわればきんぽうげ
ここにふたたび花いばら散っている
ー行乞途上ー [種田山頭火「草木塔」]
609
山あれば山を観る
雨の日は雨を聴く
春夏秋冬
あしたもよろし
ゆふべもよろし
なんといふ空がなごやかな柚子の二つ三つ
—山行水行—
たたずめば風わたる空のとほくとほく
—柿の葉—
焼き場水たまり雲をうつして寒く
死はひややかな空とほく雲のゆく
死のしづけさは晴れて葉のない木
—孤寒—
老遍路
死ねない手がふる鈴をふる
—鴉— [種田山頭火「草木塔」]
516
5 鶯の声遠き日も暮にけり
26 隈ゝに残る寒さやうめの花
28 うめ散るや螺鈿こぼるる卓(しょく)の上
38 やぶ入りの夢や小豆の煮えるうち
44 これきりに径(こみち)尽きたり芹の中
45 古寺やほうろく捨るせりの中
52 公達に狐化けたり宵の春
58 草霞み水に声なき日ぐれ哉
61 橋なくて日暮れんとする春の水
74 はるさめや暮なんとしてけふも有
75 春雨やものがたりゆく簑と傘
76 柴漬(ふしづけ)の沈みもやらで春の雨
79 古庭に茶筌花さく椿かな
116 遅き日のつもりて遠きむかしかな
117 春の海終日のたりのたりかな
121 大津絵に糞(ふん)落しゆく燕かな
122 大和路の宮もわら屋もつばめ哉
125 曙のむらさきの幕や春の風
131 閣に坐して遠き蛙をきく夜哉
142 居(すわ)りたる舟を上がればすみれ哉
155 雛見世の灯を引ころや春の雨
159 さくらより桃にしたしき小家哉
161 几巾(いかのぼり)きのふの空のありどころ
175 海手より日は照つけて山ざくら
177 花に暮て我家遠き野道かな
185 花の香や嵯峨のともし火消る時
202 花ちりて木間の寺と成にけり
209 菜の花や月は東に日は西に
211 菜の花や鯨もよらず海暮ぬ
218 行春や白き花見ゆ垣のひま
221 まだ長ふなる日に春の限りかな [蕪村句集 巻之上 春之部]
517
241 岩倉の狂女恋せよ子規
245 草の雨祭の車過てのち
248 寂として客の絶間のぼたん哉
249 地車のとどろとひびく牡丹かな
251 牡丹切て気のおとろひし夕かな
252 山蟻のあからさま也白牡丹
253 広庭のぼたんや天の一方に
265 宵々の雨に音なし杜若
268 短か夜や毛むしの上に露の玉
276 短夜や小見世明たる町はづれ
279 卯の花のこぼるる蕗の広葉哉
285 三井寺や日は午にせまる若楓
288 窓の燈の梢にのぼる若葉哉
289 不二ひとつうづみ残してわかばかな
300 うは風に蚊の流れゆく野河哉
303 蚊の声す忍冬の花の散るたびに
313 病人の駕も過けり麦の秋
325 花いばら故郷の路に似たる哉
326 路たえて香にせまり咲くいばらかな
330 青うめをうてばかつ散る青葉かな
350 さつき雨田毎の闇となりにけり
355 行々てここに行々て夏野かな
396 夜水とる里人の声や夏の月
408 半日の閑を榎やせみの声
420 祇園会や真葛原の風かほる
427 涼しさや鐘をはなるるかねの声
453 裸身に神うつりませ夏神楽
455 灸のない背中流すや夏はらへ
456 出水の加茂に橋なし夏祓 [蕪村句集 巻之上 夏之部]
520
462 初秋や余所の灯見ゆる宵のほど
474 ひたと犬の啼町越えて躍かな
496 朝がほや一輪深き淵のいろ
506 市人の物うちかたる露の中
512 朝霧や村千軒の市の音
513 朝霧や杭(くいぜ)打音丁々(とうとう)たり
529 月天心貧しき町を通りけり
536 名月や夜は人住ぬ峰の茶屋
537 山の端や海を離るゝ月も今
542 名月や神泉苑の魚躍る
547 鹿啼てははその木末あれにけり
553 去年より又さびしいぞ秋の暮れ(老懐)
554 父母のことのみおもふ秋のくれ
557 門を出れば我も行人秋のくれ
576 水落て細脛高きかがし哉
579 道のべや手よりこぼれて蕎麦花
590 小鳥来る音うれしさよ板びさし
601 追剥を弟子に剃りけり秋の旅
615 市人のよべ問かはすのはきかな
632 村百戸菊なき門も見えぬ哉
648 欠かけて月もなくなる夜寒哉 [蕪村句集 巻之下 秋之部]
521
677 楠の根を静にぬらす時雨哉
683 炉に焼てけぶりを握る紅葉哉
702 咲くべくもおもはであるを石蕗花(つはのはな)
721 たんぽぽのわすれ花あり路の霜
742 蕭条として石に日の入る枯野かな
744 待人の足音遠き落葉哉
768 みどり子の頭巾眉深きいとをしみ
806 皿を踏鼠の音のさむさ哉
807 静なるかしの木はらや冬の月
812 斧入て香におどろくや冬こだち
819 御火焚や霜うつくしき京の町
820 御火たきや犬も中中そぞろ皃
836 山水の減るほど減りて氷かな
837 しづしづと五徳すえけり薬喰 [蕪村句集 巻之下 冬之部]
538
春
13 さくら散る苗代水や星月夜
32 なの花や昼一しきり海の音
44 たたずめば遠きも聞ゆかはずかな
86 ばらばらとあられ降過る椿かな
72 折りもてるわらび凋れて暮遅し
秋
282 田に落て田を落ゆくや秋の水
291 銀杏踏みて静に児の下山哉
294 一本づつ菊まいらする仏達
345 松明消て海少し見ゆる花野かな
冬
529
炭売に日のくれかかる師走哉
自筆句抄
11 山畑やけぶりのうえのそば畠 [蕪村遺稿 ]